食べてカーボンオフセットが可能なゼロカーボン食品とは
一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- ゼロカーボン食品とは
1-1.ゼロカーボン食品の概要
1-2.ゼロカーボン食品誕生の背景 - ゼロカーボン食品の特徴
2-1.温室効果ガスの削減が可能
2-2.誰もがカーボンニュートラルに貢献可能
2-3.一定の設備投資が必要
2-4.販売価格が割高 - 中国におけるゼロカーボン食品
3-1.ゼロカーボン食品の普及状況
3-2.肥料の改善
3-3.多くの企業が参入 - 日本における取り組み
4-1.イオンの脱炭素イチゴ
4-2.森永乳業のフードサプライチェーン - まとめ
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「ゼロカーボン」というワードを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
近年、世界中で脱炭素社会の実現に向けた動きが進められている中、このゼロカーボンを食品の生産プロセスにおいて実現する「ゼロカーボン食品」に注目が集まっています。
そこで今回は、食べてカーボンオフセットが可能なゼロカーボン食品について、その概要や特徴、また実例などを詳しく解説していきます。
①ゼロカーボン食品とは
1-1.ゼロカーボン食品の概要
ゼロカーボン食品は、生産から流通までのプロセスにおいて、温室効果ガスの排出がゼロまたはマイナスとなる食品を指します。ゼロカーボンの活動では、ガスの排出量を削減するだけでなく、吸収量を増やすことも重要です。具体的には、森林管理や植林活動などがそれに該当します。このゼロカーボンは「カーボンニュートラル」や「ネットゼロ」という言葉と同じ意味を持ち、多くの人たちの関心を集めています。
食品産業においても、生産から流通までの過程での二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする取り組みが進行中です。
1-2.ゼロカーボン食品誕生の背景
近年のカーボンニュートラルへの動きの背景には、「パリ協定」があります。この協定は、2015年にフランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されました。パリ協定の主な目標は、平均気温上昇を産業革命以前と比較して2℃未満に抑えることや、5年ごとの排出量削減目標の提出です。
日本もこの動きを受け、「2050年カーボンニュートラル」を目指すという宣言を2020年10月に出しました。これは、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするという意味です。このムーブメントの中で、2021年には「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」による関連の研究報告書も発表されました。
「企業のカーボンニュートラルルートマップ」と題されたこの研究報告書では、食品が食卓に並ぶまでの多くのプロセス、例えば研究開発や栽培、加工、流通などを経る中で温室効果ガスが排出されることを明らかにしています。
また、人口増加と肉類消費の増加を背景に、世界の食品消費が今後数十年で約70%増加すると予想されています。これにより、食品供給と温室効果ガスの削減のバランスをとることが課題となっています。このような背景から、ゼロカーボン食品が開発されました。
ゼロカーボン食品は、サスティナブルな生産を促進するキーワードとして注目されています。また、食品のトレーサビリティの重要性が高まる中で、この分野は益々の注目を集めています。
②ゼロカーボン食品の特徴
2-1.温室効果ガスの削減が可能
ゼロカーボン食品は、温室効果ガスの削減に大きく寄与します。食品生産の全プロセスで排出される温室効果ガスは、全体の約21%~37%を占めると言われています。ゼロカーボン食品は、これらの排出を抑える役割を果たします。
2-2.誰もがカーボンニュートラルに貢献可能
カーボンニュートラルの取り組みについて知ってはいても、具体的な参加方法が分からない方も多いでしょう。しかし、ゼロカーボン食品を選ぶだけで、私たちは容易にその取り組みに参加できます。例えば、中国では「ゼロカーボン野菜」や「カーボンニュートラル牛乳」のような商品が既に市場に登場しており、評価されています。
こうした動きは今後も世界中に拡がっていくことが予想されているため、その動向に関心が集まっています。
2-3.一定の設備投資が必要
「ゼロカーボン」の実現には、適切な設備投資が必要です。脱炭素を目指すサプライチェーンでは、エネルギー消費を低減する設備の更新や、新しいテクノロジーの導入が求められます。これらの取り組みを通じて温室効果ガスの削減を可視化することも大切です。ただし、農業などの分野では、環境や気候の変動による影響も考慮しなければならず、そのための科学的知見の蓄積や評価方法の開発が重要です。特に中小企業には、初期投資のハードルが高い場合があるため、支援策の検討も求められます。
2-4.販売価格が割高
ゼロカーボン食品の生産コストは一般的な食品よりも高いため、販売価格もそれに伴って高くなります。このため、消費者が環境を優先して、安価な従来の食品よりもゼロカーボン食品を選択するかどうかは、注目される点です。
例として、中国の報道によれば、ゼロカーボン食品としてのパクチーは50gで7.9元(約160.81円)であり、通常のパクチーの50gが3.36元(約68.40円)なので、その価格は約2.3倍です。
しかし、中国ではこの価格差を考慮し、ゼロカーボン食品の購入者へのインセンティブを提供しています。具体的な内容については、次の項で説明します。
③中国におけるゼロカーボン食品
3-1.ゼロカーボン食品の普及状況
中国はゼロカーボン食品の普及が進む国の一つです。2022年の6月以降、多くのECプラットフォームやスーパーマーケットで販売が始まっています。例えば、武漢のスーパーマーケット「盒马鲜生」では、全店でゼロカーボン食品の販売を行っており、約15種類のゼロカーボン農産物を取り扱っています。
その他のチェーンも、ゼロカーボン農産物の導入を計画しており、マーケット規模は拡大の一途をたどると見られています。
ゼロカーボン食品は認証機関から緑の「認証ロゴ」を受け、消費者はこれを目印に選ぶことができます。加えて、購入者には「脱炭素ポイント」が提供され、一定のポイントを集めると、店のアプリでの特典と交換できるシステムが開発中です。
3-2.肥料の改善
ゼロカーボン食品の生産では、肥料の見直しが温室効果ガスの削減の鍵となっています。現在、農業では窒素、リン、カリの三元肥料や複合肥料がよく使用されますが、これらの使用で温室効果ガスが発生します。一部の専門家は、これらの化学肥料が農業の最大の炭素排出源であると指摘しており、その改善が重要視されています。
3-3.多くの企業が参入
ゼロカーボン食品分野には、大手企業も参入を表明しています。ネスレはカーボンニュートラルな「オーガニック粉ミルク」の販売を始め、1缶で約14.2kgのCO2を相殺するとされています。ユニリーバも、広州にゼロカーボン製品の生産拠点を建設し、3年以内にパーソナルケアから食品まで、様々な製品のゼロカーボン生産能力を強化する計画を発表しています。
④日本における取り組み
ゼロカーボン食品の普及のための取り組みは、日本でも進行中です。具体的な事例をいくつか紹介します。
4-1.イオンの脱炭素イチゴ
大手スーパー「イオン」は、2024年に二酸化炭素の排出をせずに生産されるイチゴの販売を中四国地方の店舗で開始する計画です。これまでの脱炭素の動きは主に製造業が中心でしたが、食品の小売りやメーカーによるゼロカーボン食品の取り扱いは注目を集めています。
イオンは今後、このイチゴ以外にもトマトなどの商品でゼロカーボンを拡大していく方針です。さらに、「グローバルギャップ」という国際的な農業認証のラベルの取得も検討中で、これにより食品のカーボンニュートラルが促進されることを期待されています。
4-2.森永乳業のフードサプライチェーン
日本の乳製品メーカー大手「森永乳業」は、フードサプライチェーン全体で環境に配慮した商品の開発と製造を目指しています。2030年までには、2013年度の基準に比べて温室効果ガス排出量を38%減少させるという目標を掲げています。
具体的には、温暖化の要因となるメタンの排出削減のため、バイオガスプラントの導入やバイオマス熱の使用、グリーン電力の利用などを進めています。また、輸送面では、トラックから鉄道や船への転換(モーダルシフト)を進めることで、温室効果ガスの排出を大幅に削減しています。
東京ー福岡間の常温輸送で排出量を77%削減、仙台工場から大阪への常温輸送では84.2%もの削減を実現しているということです。
⑤まとめ
パリ協定などを背景として、現在世界中でカーボンニュートラルへの取り組みが行われていますが、特に食品分野での温室効果ガス排出量は全体の多くを占めていると言われており、早急な改善が求められています。
そんな中、生産プロセスにおける温室効果ガスの排出量がゼロもしくはマイナスである「ゼロカーボン食品」に注目が集まっており、中国ではすでに多くの店舗において実際に販売がスタートされています。
また、日本においてもいくつかの企業が参入を表明しており、今後は実店舗などでも購入が可能になる予定であるため、脱炭素に向けて何かアクションを起こしたいという方は、こうしたゼロカーボン食品の購入を検討してみてもいいかもしれません。
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