TEIJINと富士通、ブロックチェーンで自転車フレームの「資源循環における環境価値化実証プロジェクト」を開始
近年、気候変動によって世界では熱波や干ばつによる水不足、暴風雨の激化、食糧不足などが起こっており、これらの主な原因は温室効果ガスだと言われています。「温室効果ガス排出量削減」は、21世紀の企業が向き合うべき最も重要な課題の一つとなっています。そのため企業では、地球環境に配慮した取り組みが必要不可欠となっています。
国内大手化学メーカーの帝人(TEIJIN)と富士通は、自転車のフレームに用いられるリサイクル炭素繊維において、「資源循環における環境価値化実証プロジェクト」が実施されました。ここでは、同プロジェクトの詳しい内容から、ブロックチェーンがリサイクルにどのように活用されるのか、実例も交えて解説します。
目次
- 自転車フレームのリサイクル炭素繊維の環境価値化とは
1-1.資源が循環利用されない現実 - 「リサイクル素材の環境価値化プラットフォーム」について
2-1.自動車フレームのトレーサビリティプラットフォームを実現
2-2.プラットフォームのデータに基づき、価値を生み出す
2-3.今後の展開として - 循環経済性にブロックチェーンのトレーサビリティを活用
3-1.アウディがブロックチェーンを使い廃棄自動車の循環経済性を検証
3-2.BMWが製造に関する主要なESGにブロックチェーンを導入 - ブロックチェーンの利用はCO2排出量を抑える手段に
- まとめ
①自転車フレームのリサイクル炭素繊維の環境価値化とは
帝人と富士通による同プロジェクトは、自転車フレームに使用される材料の資源や環境負荷に関する証跡データを収集・管理するとともに、そのプロセスの実現性を評価し、可視化したデータの価値を検証します。これには、両社が昨年7月より構築を進めているブロックチェーンを活用した「リサイクル素材の環境価値化プラットフォーム」が使用されます。なお同プロジェクトは1月から3月まで実施されました。
また環境への関心が高い自転車市場における、証跡データの開示によるトレーサビリティの実現や、カーボンマネジメントへの活用による、価値の創出を目指すとのことです。なお今回のプロジェクトは、炭素繊維強化プラスチックを使った自転車フレームの製造・販売を行うV Frames(ブイファームス)ならびに、自転車メーカーのE Bike Advanced Technologies(アドバンスドバイクス)と共に実施するとのことです。
1-1.資源が循環利用されない現実
発表によると欧州の自転車産業では、多くがアジアで製造されたフレームを使用し、また、使用済みフレームの多くをアジアで埋め立て処分しているのが現状です。さらに材料や使用済みフレームといった、資源の長距離輸送によるエネルギー消費量がかさむことから、資源が循環利用されずに処分されているという。これらは自転車産業にとって大きな問題になっているとのことです。
なおこのような状況下においてV Framesは、ドイツ国内での資源活用や、製品寿命を迎えたV Frames社製自転車フレームを再利用したフレームの製造に取り組んでおり、温室効果ガス(GHG)排出量削減に貢献しているとのことです。
自転車自体は排気ガスを出す乗り物ではありませんが、製造過程や、使用後において、環境負荷をかけてしまうという実態は、なかなか消費者側には見えない事実です。そのためにもV FramesのようにGHGの削減に貢献している企業を応援する必要があると言えます。
②「リサイクル素材の環境価値化プラットフォーム」について
同プラットフォームは2022年7月、帝人と富士通がブロックチェーンを活用した、リサイクル素材の環境価値化PFの実現を目指した共同プロジェクトです。
2-1.自動車フレームのトレーサビリティプラットフォームを実現
「リサイクル素材の環境価値化プラットフォーム」では、自転車フレームのリサイクルから販売に至るまでの全工程における資源に関する情報(所在、状態、環境負荷など)が反映されます。そのため物理空間の資源の状況をデジタルで仮想的に表現ができるとのことです。また帝人では、炭素繊維・アラミド繊維などの製造工程における温室効果ガス(GHG)排出量の算出方法を確立しており、炭素繊維強化プラスチック(FRP)の再生に関する取り組みも推進しています。
同プラットフォームは、FRPへの再生などにおけるバリューチェーン全体での環境負荷(GHG排出量を含む)に関する、一次データの収集・トレースにおいて、富士通のブロックチェーンを活用しています。これはリサイクル素材の環境価値の信頼性向上を実現するとしています。
また同プラットフォームの利用で、リサイクル素材を用いて製品を設計するメーカーに対して、リサイクル素材使用の証明や、ブロックチェーンに記録した信頼性の高い環境負荷情報を提供することができるとのことです。それによりメーカーによるリサイクル素材の利活用や環境配慮設計を促進することが可能とのことです。
2-2.プラットフォームのデータに基づき、価値を生み出す
同プラットフォームの活用法としては、収集したデータに基づき、自転車ユーザーに対するトレースデータの開示や、ステークホルダーのカーボンマネジメントなどに活用することで、環境価値を生み出すと言います。さらにプラットフォームに蓄積されたデータは、自転車フレームの資源循環を実現していることを示すデータであることから、将来的には、ESG投資の評価やカーボンクレジットとしての活用に展開するとのことです。
2-3.今後の展開として
今後、この取り組みに賛同したパートナー企業や団体との議論および実証などを進め、自転車フレームのみならず、他産業でもリサイクル市場の発展に取り組むとしています。そして素材産業起点でのサーキュラーエコノミーの実現に貢献するとしています。
ちなみに「リサイクル素材の環境価値化プラットフォーム」には、富士通のブロックチェーントレーサビリティプラットフォームを実現するサービス「Fujitsu Track and Trust」が用いられています。そして同サービスのシステム基盤には、エンタープライズ向けブロックチェーンであるハイパーレジャーファブリック(Hyperledger Fabric)が採用されています。
〇収集されたデータの信頼性
排出量削減を目指す際、カーボンクレジットは有益な手段になります。カーボンクレジットとは、簡単にいうと、特定の量の温室効果ガス(GHG)排出量の削減または吸収に対応して、カーボンクレジットという市場で取引できる形として、生成される仕組みとなっています。
温室効果ガスは、化石燃料の燃焼や産業プロセスを通じて排出されます。二酸化炭素の排出量を削減することは重要ですが、全ての排出量をゼロにするのは困難な場合があります。そこで、自らの手でコントロールできる範囲を超えてカーボンオフセットを進める方法として、環境に優しいプロジェクトへの投資やカーボンクレジットの購入があります。これにより、同等量の温室効果ガスの排出削減や吸収を行うことが可能となります。
しかしカーボンクレジットの課題として挙げられるのが、その属性や品質についての信頼性です。排出削減クレジットについて、現状と不一致な品質の悪いクレジットが生成されてしまっている事例が、存在するとの報告があります。そこでブロックチェーンの特性でもある、改ざん耐性を適切に活用することによって、こうした課題を克服できる可能性があると言えるでしょう。
③循環経済性にブロックチェーンのトレーサビリティを活用
自転車業界だけでなく自動車業界でも環境問題に対して配慮できるシステムをブロックチェーンで構築している企業があります。製品の製造においてブロックチェーンを使用することで、材料に対しても責任を持って調達・生産、その後の供給を「見える化」させることが、循環経済には必要になってきます。その実例をご紹介します。
3-1.アウディがブロックチェーンを使い廃棄自動車の循環経済性を検証
海外の自動車メーカーアウディ(Audi)がサーキュライズと連携し、廃棄自動車の循環経済性を検証する「マテリアルループプロジェクト(MaterialLoop project)」において、蘭サーキュライズ(Circularise)のブロックチェーントレーサビリティシステムを利用したことを2023年3月3日発表しました。
ブロックチェーン・トレーサビリティ・スタートアップのサーキュライズ(Circularise)は、ブロックチェーンを活用したトレーサビリティシステムを開発しています。当システムによって、個別の商品に関する原材料調達からリサイクルに至るまでライフサイクル全体に、アクセスできるデータ「デジタル製品パスポート」を企業に対し提供しています。
サーキュライズの蘭サーキュライズ(Circularise)は、車体がスチール・アルミニウム・プラスチック・ガラスなどの材料群に解体されてからのリサイクル、そして新車への再利用するまでの動きを追跡するため、アウディのプロジェクトへ提供しました。
サーキュライズによると今回実施された検証は、廃棄車両に使われている使用後の材料を新車の生産に再利用する可能性の調査を目的とした試験プロジェクトとのことです。また、材料のダウンサイクル(元々の製品より価値を下げた再利用)を回避して持続可能な廃棄車両のリサイクル方法を実現することを目的に、アウディの他に研究・リサイクル・サプライヤー分野における14のパートナーがプロジェクトに参加したとのことです。
3-2.BMWが製造に関する主要なESGにブロックチェーンを導入
独BMWグループが、英豪資源会社リオティント(Rio Tinto)との提携を2月21日発表しました。これによりBMWは、リオティント製品の製造に関する主要なESG(環境・社会・ガバナンス)情報をブロックチェーン技術を使用して「見える化」するトレーサビリティプラットフォーム「START(スタート)」の導入を検討するとしています。
今回の両社の提携によりBMWは、米国サウスカロライナ州スパータンバーグにある車体組み立て工場向けに、低炭素アルミニウムの供給を2024年より受ける予定です。
低炭素アルミニウムは、オティントがカナダで水力発電を利用して生産し、さらにリサイクル原料と組み合わされたアルミニウムです。低炭素アルミニウムは、BMWグループがアルミニウム部品に関して定めている現行基準値と比較して、温室効果ガス排出量を最大70%削減することが可能とのことです。
さらに両社は、BMWグループのサプライチェーンにリオティントの「ELYSIS」技術を用いて製造されたアルミニウムを組み込むための覚書も締結しています。「ELYSIS」はアルミニウムの製錬工程で温室効果ガスを直接排出せず、酸素のみを生み出す世界初のカーボンフリーなアルミニウム製錬技術です。
④ブロックチェーンの利用はCO2排出量を抑える手段に
このように自動車業界が、自動車の製造や廃車になってからのトレーサビリティにブロックチェーンを採用することで、材料をムダなく再利用できるルートを見える化させることが可能です。ブロックチェーンを利用することで、材料の生産から流通などが効率化され、結果的に環境への負担を抑えることに繋がります。
WEF(世界経済フォーラム)は、温室効果ガスを抑制するために、企業や会社の排出量をブロックチェーンを用いて管理する必要があることを提言しました。例えば、製造業者の倉庫から店頭販売までの流通をブロックチェーン技術を用いて一括管理をおこなうことで、効率的に製造・販売ができ、環境破壊やエネルギー消費を抑制できるようになると、述べています。
また、ブロックチェーン技術を活用して、二酸化炭素排出量を記録、開示することができれば、製造業者はカーボンタックスを避けるために、CO2排出量を抑えるための商品開発を積極的に行うとも、述べられています。
⑤まとめ
ブロックチェーンは食品のトレーサビリティや、金融機関のローン業務に活用されるケースは珍しくありません。自転車メーカーや海外の大手自動車メーカーが生産やリサイクルのトレーサビリティにブロックチェーンを導入することで、どのくらいリサイクルに利用されたのか、GHGをがどれくらい削減されたのか可視化され、信頼性の高いデータが記録されます。
このようにブロックチェーンは環境問題の足がかりになる可能性があり、試験や検証などこれから長期的に見守る分野でもあります。これからブロックチェーンを導入する企業は増えると思われるので、自分ごとにするためにも興味がある方は今後も注目してみてください。
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TEIJINと富士通、ブロックチェーンで自転車フレームの「資源循環における環境価値化実証プロジェクト」を開始