空き家を再生し、住宅確保困難者に低価格で貸す。住まいの2つの社会課題を同時解決するRennovater株式会社【代表インタビュー】
国内の住宅総戸数は住宅・土地統計調査(総務省)によれば、1998年の5024.6万戸から2018年には6240.7万戸に増加し、また新設住宅着工戸数(国土交通省)を見ると2019年以降も毎年80万戸以上のペースで増え続けています。
その一方で、空き家の総数は1998年から2018年までの20年で約1.5倍(約576万戸→約849万戸)に増加しており、その中でも利用予定がない住宅である「その他空き家」は同時期の20年で約1.9倍(約182万戸⇒約349万戸)にまで増加しています。空き家の数が急激に増える中で、新築物件の着工は依然として高い水準で続いているとなっています。
また、住まいに関わる社会課題は空き家の増加だけではありません。「住宅確保要配慮者」というカテゴリに該当する高齢単身世帯、精神疾患を抱えた方や障がい者のいる世帯、低所得世帯、ひとり親世帯、外国人世帯などは、孤独死のリスクや保証人がつかない、家賃の支払いに関する懸念、近隣住民とのトラブルリスクなどから、入居自体を断られてしまうというケースも少なくありません。そして、国土交通省によれば、この住宅確保要配慮者の数は増加傾向にあると言われています。
このように新しい住宅や利用予定のない空き家数が増え続けているにも関わらず、住まいの確保に困難を抱える方もまた増加傾向にある、といういびつな社会構造になっており、現状を打開する課題解決の方法が求められています。
この課題に対し、空き家を自ら取得した上でリフォーム・リノベーションし、それを保証人不要・敷金礼金不要・最安水準の賃料で生活困窮世帯の方に直接貸し出すという形で、住まいに関する社会課題を同時に解決する事業を展開しているのがRennovater株式会社です。
今回は、同社の代表取締役社長である松本知之さんに、事業上の工夫や事業への想い、社会的インパクトレポートを実際に出してみて感じられたこと、今後の課題や展開などについて詳しくお伺いしました。
話し手のプロフィール
Rennovater株式会社 代表取締役社長(創業者) 松本知之
- 同志社大学工学部卒、京都大学大学院エネルギー科学研究科修了。
国際学会(Bioceramics16)にて、最優秀賞を受賞。2004年から2019年まで日本生命保険相互会社にて、主に投資部門、企画部門に従事。個人事業として8年間の経験を経て、2018年5月にRennovater株式会社を設立。「かわさき起業家賞」受賞、第3回「日経ソーシャルビジネスコンテスト」ファイナリスト。中小企業診断士。座右の銘は、「積小為大」「努力は運を支配する」。
空き家を低価格で提供するために、リフォームの際に貴社で工夫されている点を教えて下さい
物件の所在地、物件のタイプから入居者像を想像してリフォームをしています。入居者の多くは高額な家賃を払うことができないため、投資コストが多くなり過ぎない様にコスト効果の高いリフォームをこころがけています。
主な入居者としては、単身の高齢者や低所得の方ですが、みなさんがご想像される以上にひどい状況にいる方だと思います。中には、DV被害者の方や元受刑者の方もいます。生活保護を受けている方は我々の認識ではハイエンドの属性で、通常の賃貸物件では断られてしまうような、自分たちしか受け入れ先がないような方が入居されています。
リフォームについては基本的に自分たちで行っており、どうしても難しいところだけ外注しています。どこまでリフォームをするかというのは、リフォーム後に「私が住める水準かどうか」で判断しています。
空き家をリフォームして賃貸管理をする際に大変だと感じることや課題を教えてください
築40年から50年程度の築古物件を多く扱っていますので、一般の物件を管理するのとは考えられないほど多くのトラブルが発生します。給水管の水漏れや排水の詰まり、雨漏りなどは日常茶飯事です。トラブルの対処で意識していることは、トラブル発生時には、最悪の事態を想定した準備をしつつ、事象をポジティブに捉えることです。
「最悪の事態を想定した準備する」という点については、たとえば「修繕コストは〇〇万円で、入居者は退去して、損害賠償は〇〇万円はかかる」という最悪のシナリオを想定しています。最悪のシナリオが想定できれば、後は上方修正するだけなので、精神的なダメージは少なくて済みます。ただ、今のところは、事前に想定した最悪の事態になることはほぼないですね。
また、「事象をポジティブに捉える」という点に関しては、未知のトラブルの発生は新たなノウハウの蓄積のチャンスや成長するチャンスなので喜ばしいこととしてとらえ、積極的に対応方法の理解に努めるようにしています。
頻度としては、1週間に1つか2つはトラブルが発生します。最近の事例ですと、家が傾いてきて、その傾きを補正するといった対応もありました。
また、最近起きた未知のトラブルで言うと、下水がつまってトイレが流れないという事例がありました。まだ完全に解決したわけではないのですが、調べてみると配管は詰まっていなかったのですが、経年で配管の勾配が逆になってしまったようで、水が流れなくなっていました。しかし、これを直すには配管工事が必要となるため、現状の中でなんとか水を流せる方法を探して、入居者さんにお伝えしました。
このように、物件のトラブルは起きるものとして想定していますので、トラブルに関する知見をためて対処の効率を上げていくことが大切だと考えています。
近隣トラブルが起きたときには、どう対処されていますか?
近隣トラブルを解消していくために大切にしていることとして、基本は入居者の味方に立つのですが、必ずしも入居者さんの主張だけを鵜呑みにしないようにしています。過度に入居者さんの権利だけをお守りするのも違うと思っていますので、フラットな感じで近隣の方にもしっかりとお話を伺って、問題の把握や解決に努めています。
具体例としては、外国籍の方がうるさくしてしまったり、精神疾患の方がまわりを不安にさせたり、反社会的な言動が見られるときもあります。そのように入居者さん側に非があったときは、時間をかけて話をした上で転居費用を当社が負担した上で、転居先を手配することもあります。
一方で、入居者さんが近隣の方からの嫌がらせやいじめにあうケースもあります。そういった時には弊社が間に入って仲裁を試みたり、解決策を一緒に考えたりもしています。
実際にロジックモデルの作成やインパクト評価などをされてみて課題だと感じたこと、これから改善したいことなどはありますか?
一般論として、ロジックモデルやKPIはステークホルダーの方からすると分かり易いかもしれないですが、経営している側からすると実際はそんなに簡単に表せるものではなく、日々刻々と変化するものだと感じています。経営側とステークホルダーとではギャップが生まれるのかもしれません。
弊社の場合は、インパクトKPIを設定しているので、そこを増やすことを目標としています。また、インパクトKPI毎にそれぞれマネタイズのポイントがあるため、KPIを志向することが財務的にもプラスになります。今後は、もっとKPIの数字にこだわりたいと思っています。
KPIは作った当初と実際の現場では違ってくることもあり、現場との乖離は生じるものだと思っていますので、あまり固定的にしないようにしています。細かな因果関係はあまり描いておらず、柔軟に対応している部分があります。たとえば、KPIの一つである「入居者の数」は、元々は自社物件のみでしたが、現在はオーナーさんの物件を管理したり、仲介で解決したりするケースもカウントしています。
ちなみに、今のオーナーさんは10人未満ですが、今後は100人くらいを目標にしています。空き家や物件を所持していらっしゃる方は、ぜひお気軽にご相談していただければと思っています。
社会的インパクトレポートでは住居満足度などKPIのスコアが大幅に改善していましたが、改善のために取り組んだことやご注力されたことをお聞かせください。
入居者が不満を抱える部分に関して、愚直に次の年度までに解決していきました。または、解決できなかったとしても相談して納得してもらうということを愚直にやっていきました。特に後半の部分が重要で、自分の不満に関して耳を傾けて相談に乗ってくれる関係性が重要だと考えています。
相談に乗ってくれる関係性という点に関連して、契約の際には『何か困ったことがあれば、いつでも相談してくださいね』と必ず言うようにしています。しっかりとコミュニケーションを取り、時間をかけて関係性を構築していけば、最初はそっけない人も段々と心を開いてくれます。そうなると相談がしやすい関係性ができあがっていくとともに、滞納なども起きにくくなる副次的なメリットもあります。
インパクト指標である入居者アンケートの結果に関しては、事業に関する通知表みたいなものだと思っています。アンケート結果には、経営的にすごく良い情報が詰まっていて、たとえばスコアが低い人たちの対応をきちんとすることが、経営の改善にもつながります。
アンケートの取り方は当初からあえて変えておらず、入居者アンケートで入居者の声を聞くだけでも良い効果があります。不満や悩みを吸い上げることが、改善のためのコミュニケーションを取るきっかけにもなります。
さらなるインパクト創出に向けて、どのようなファイナンスを計画・予定されているのかお聞かせください
弊社の場合は不動産事業の性質上、借り入れが主体となります。今後は個別の物件の担保だけではなく、会社の収益性をベースに使用用途を限定しない借り入れができるようにしていきたいですね。
また出資面では、事業を応援してくれている方々に出資だけでなく事業にも直接関わっていただいています。金融機関のファンドに投資していただきつつ、借り入れも行っているケースもあります。
今後も金融機関や機関投資家さんを中心としてファイナンスを拡大していきたいと考えていますが、新しい事業をやっているところに対して、積極的にリスクテイクしてくれれば嬉しいです。
低価格の賃貸市場にはどういった課題や可能性があると感じていらっしゃいますか?
「実はこうすれば貸し倒れが低くなったりする」という方法論はありますが、一般の地主さんの場合は手間がかかりすぎて出来ないという面もあると思います。しかし、住宅確保困難者の方にも貸すことができれば、空室が続いている物件も埋めることができます。
たとえば、弊社は現在、オーナーさんの物件をオンライン上で掲載して管理しています。将来的には自分たちが蓄えたデータを公開することで、不動産会社さんたちにも、「リスクと手間とトラブルの塊だけど、こうやれば対処できるよ」という方法論を伝えていくことができればと思っています。
また、今は高齢者の方・外国人の方を入居制限されているオーナーさんも多いと思いますが、20年後・30年後には空室を埋めるために高齢者の方・外国人の方にも貸さざるをえないオーナーさんも増えてくると思います。そうなったとき、弊社は高い家賃を支払えない方や口座振替なんて利用できないといった方たちにも、リスクを回避しながら貸しやすくする方法というのをお伝えすることができると考えています。
空き家オーナーや投資家の方に期待することは?
お金は余っているところには余っています。一方で、空き家は今後増えてくる。休眠しているお金と住宅ストックを活用できれば、困った人たちに住居が提供でき、事業を維持可能な収益も出せます。私たちが手掛けている事業には、国がやるべき課題解決を民間でできるという面白さがあります。
私たちの目指すところや事業に共感していただける方には、ぜひ物件を提供していただいたり、お金を投資していただいたり、事業に関わっていただけたりすると嬉しいです。入居者さんへ物件を仲介と管理をさせて頂くケースもあれば、サブリースでのご対応も可能です。
最初は空き家を事業の手段として使っていましたが、実は空き家の活用や再生の相談が多く、空き家の活用や再生が喜ばれるということが多くありました。地域の古民家や、誰も引き取り手のない物件も多いですが、弊社はリフォームやリノベーションはほぼ外注せずにやっています。今後は、たとえばオーナーさんと一緒に物件を直したり活用していけたら面白いと思っています。
社債を保有していただいている方向けのDIY体験イベントなども開催できればと思っていますので、まずは気軽に関わっていただけると嬉しく思います。
編集後記
「住まいの社会課題を同時に解決するインパクト・スタートアップ」。そう聞くと非常にスタイリッシュな感じですが、実際には1つだけでも解決が難しい課題を2つ同時に扱わなければならないということで、通常の事業や賃貸経営よりも多くの困難に直面することになります。そこには、住宅確保が困難な方に対する想像力や愛、努力が必要になるはずですが、この事業がこれからの日本社会で育っていくことには大きな意義を感じます。
年を重ねれば、すべての人がいずれは高齢者となります。事故や病気で障がいを抱えたり、健康を失って低所得になったりすることもあるでしょう。これらは決して他人事ではなく、いずれ自分が直面するかもしれない未来の一つです。ただ、もしそうなったとしても、リノベーターさんのような事業があることを知っていれば、私たちはとても心強い気持ちを抱いて、安心して日々を過ごすことができるようになるはずです。
自分や周りの大切な人たちがいつかお世話になるサービスなのかもしれない。そう思いながら、できることから関わっていくことが、住みやすい社会やより良い未来へとつながるのではないでしょうか。
【関連サイト】Rennovater株式会社
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