金利上昇時代の投資戦略は?中小型バリュー株が魅力的な理由と注目銘柄を5つ解説

近年、日本株式市場では中小型株のバリュー株に注目が集まっています。バリュー株とは、企業の実質的な価値に比べて割安に評価されている銘柄です。

本記事では、中小型バリュー株の魅力を解説するとともに、投資のプロである筆者が注目する5銘柄を紹介します。

※本記事は2024年3月26日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。


目次

  1. 中小型株の魅力と投資戦略
  2. 中小型株に投資するときの注意点
  3. 金利上昇局面におけるバリュー株投資の魅力
    3-1.低PBRの企業は金利上昇局面でも安定したパフォーマンスが期待できる
    3-2.相場動向を見るとバリュー株が優位な展開に
  4. バリュー株投資におけるPBRの重要性と東京証券取引所の取り組み
  5. 注目の中小型バリュー株5選
    5-1.愛三工業(7283)
    5-2.前澤工業(6489)
    5-3.リケンテクノス(4220)
    5-4.大同工業(6373)
    5-5.北川鉄工所(6317)
  6. まとめ

1.中小型株の魅力と投資戦略

中小型株とは、株式市場に上場している企業の中で、時価総額(発行済株式数×株価)が相対的に小さい企業の株式を指します。一般的に、時価総額が1,000億円未満の企業を小型株、1,000億円以上3,000億円未満の企業を中型株と分類します。

参照:会社四季報オンライン「時価総額

中小型株の企業は市場シェアが小さく、事業拡大の余地が大きいため、高い成長性が期待できます。また、大企業と比べて、新しい事業領域への進出や、革新的な製品やサービスの開発のスピードが速い傾向があります。そして、ニッチ市場で独自の技術や製品を持つ中小型企業は、競争優位性を発揮しやすい環境にあります。

次に、中小型株は投資家の関心が低く、アナリストのカバレッジも少ないため、本来の価値に対して割安に放置されている銘柄が多く存在します。アナリストのカバレッジとは、証券会社などの金融機関が特定の企業を分析し、投資家向けに情報を提供するサービスです。

ソニーやホンダなどの大型株でアナリストのカバレッジが多い企業は、投資家からの注目度が高く、株価情報も豊富に存在します。一方、アナリストのカバレッジが少ない企業は、投資家からの関心が低く、株価情報も限定的です。

ただ、これは、投資家にとって魅力的な投資機会を提供しているともいえるでしょう。大型株に比べて、中小型株は情報が限定的で、市場参加者の目が行き届きにくいことが、このような割安株の存在につながっているからです。

さらに、中小型企業は大企業による買収の対象となる場合があります。買収が実現した場合、株価は大きく上昇する可能性があります。大企業は、自社の事業拡大や新規事業への進出を目的に、優れた技術や製品を持つ中小型企業を買収することがあるのです。

2.中小型株に投資するときの注意点

ただし、中小型株投資には注意点もあります。まず、情報開示が限定的な場合もあり、投資家は企業の実態を十分に把握できないというリスクです。また、取引量が少ない傾向があるため、投資家が希望するタイミングで売買できない流動性リスクも存在します。さらに、事業基盤が脆弱な企業では、特定の取引先への依存度が高い可能性や、新規事業の失敗が業績に大きな影響を与えるリスクがあります。

こうしたリスクに対処するには、徹底した企業調査と長期的な視点が不可欠です。事業内容、財務内容、経営陣の質などを多面的に分析し、企業の競争力と成長性を見極める必要があります。

また、短期的な業績変動に一喜一憂するのではなく、企業の成長ストーリーを評価することが重要です。さらに、ポートフォリオの分散も欠かせません。特定の銘柄や業種に集中するのではなく、複数の銘柄に分散投資することでリスクを管理するようにしてください。

3.金利上昇局面におけるバリュー株投資の魅力

3-1.低PBRの企業は金利上昇局面でも安定したパフォーマンスが期待できる

2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策の修正に踏み切ったことで、今後は金利上昇が予想されています。こうした環境下では、投資家は高PER(株価収益率)のグロース株よりも、PBR(株価純資産倍率)の低いバリュー株に注目しています。PERとPBRは、株式投資において企業の価値を評価するために用いられる指標です。

PERは、株価純資産倍率 (Price-Earnings Ratio) の略称です。これは、1株あたりの株価を1株あたりの純利益で割ったもので、PERが高いほど、投資家が将来の利益に対して高い期待を持っていることを示します。

一方のPBRは、株価純資産倍率 (Price-Book Value Ratio) の略称です。これは、1株あたりの株価を1株あたりの純資産で割ったものです。PBRが高いほど、企業の資産価値に対して株価が高いことを示します。

そして、グロース株は、将来の高い成長が期待される企業の株式です。これらの企業の株価は、期待される将来の利益成長を織り込んで高めに評価される傾向があります。一方、バリュー株は、現時点での資産価値や収益性に比べて割安に評価されている企業の株式です。

金利上昇は、グロース株の評価に影響を与えます。将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く際の割引率が上昇するため、将来の成長期待が株価に織り込まれにくくなるからです。

対照的に、バリュー株は実質的な資産価値に基づいて評価されるため、金利変動の影響を受けにくいとされています。加えて、バリュー株の多くは事業基盤が安定した成熟企業であるため、金利上昇局面でも安定したパフォーマンスが期待できるのです。

3-2.相場動向を見るとバリュー株が優位な展開に

この優位性は、TOPIXスモールバリューとTOPIXスモールグロースの比較からも裏付けられています。TOPIXスモールバリューは、小型株の中でもバリュー特性を持つ銘柄で構成される指数です。一方、TOPIXスモールグロースは、小型株の中でもグロース特性を持つ銘柄で構成されます。直近の相場動向を見ると、バリュー株が優位な展開となっています。

TOPIXスモールグロース


※図はTradingView[PR]より筆者作成

TOPIXスモールバリュー


※図はTradingView[PR]より筆者作成

以上のように、金利上昇局面では、バリュー株が相対的に魅力的な投資対象になります。ただし、バリュー株の中にも、収益性の低下や財務リスクを抱える企業が存在することに注意が必要です。投資家は、個別企業の財務内容や事業環境を精査し、割安度合いだけでなく、企業の質も見極めることが求められます。

4.バリュー株投資におけるPBRの重要性と東京証券取引所の取り組み

バリュー株投資において、PBRは重要な指標の一つです。PBRは、株価を1株当たりの純資産で割って算出されます。PBRが1倍を下回る水準にある企業は、株価が純資産を下回っていることを意味し、「割安」と判断されます。

しかし、日本企業の中には、PBRが1倍を大きく下回る企業が数多く存在していました。2022年7月時点で、日本の上場企業の43%がPBR1倍を下回っていたのです。


出典:JPX「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議 第五回参考資料

この現象は、日本企業の収益性の低さや、株主重視の経営が浸透していないことを反映していると考えられます。

こうした状況を改善するため、東京証券取引所は2023年3月、PBR1倍割れ企業に対し、株価上昇につながる施策の開示を求める方針を打ち出しました。そして、2024年1月には、施策を開示した企業のリストを公表しました。この取り組みは、日本企業の株主重視経営を促し、株式市場の活性化を図る狙いがあります。


出典:JPX「「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について

しかし、2023年7月時点における「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示状況は、プライム市場で31%、スタンダード市場では14%にとどまっています。この数字は、多くの企業がまだ資本コストを意識した経営の重要性を十分に認識していないことを示しています。

資本コストを意識した経営は、投資家との対話や企業価値の向上につながります。開示を行うことで、投資家は企業の経営戦略や財務状況をより深く理解することができ、長期的な投資判断に役立ちます。

ただ、PBRは企業の資産価値を評価する上で重要な指標ですが、同時に注意点もあります。PBRが低い企業の中には、収益性が低迷しているケースや、不良資産を抱えているケースがあるからです。

投資家は、PBRの水準だけでなく、ROE(自己資本利益率)など、収益性を表す指標もチェックすることも大切です。加えて、企業の事業内容や競争環境、成長戦略なども精査し、総合的に企業の割安度を判断するようにしてください。

5.注目の中小型バリュー株5選

ここでは、今後の成長が期待される有望な中小型バリュー株を5銘柄ピックアップします(2024年3月26日時点)。

5-1. 愛三工業(7283)

  • 株価 1,688円
  • PER 9.20倍
  • PBR 0.87倍
  • 配当利回り 3.20%

愛三工業はトヨタ自動車の系列企業であり、自動車部品メーカーとして高い技術力を誇ります。同社は、電気自動車(EV)へのグローバルシフトを見据え、EVに搭載されるコンプレッサーや電動パワーステアリング用モーターの開発に注力しています。EVシフトが加速する中で、同社の成長が期待されています。

5-2.前澤工業(6489)

  • 株価 1,082円
  • PER 7.82倍
  • PBR 0.79倍
  • 配当利回り 2.59%

前澤工業は、下水処理施設用の沈殿槽設備で高いシェアを誇る企業です。同社の技術は、台風などの自然災害による下水処理施設の損壊を防ぐ上で重要な役割を果たします。また、同社は省エネルギーや脱炭素に関する技術開発にも積極的で、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献する企業として評価されています。

5-3.リケンテクノス(4220)

  • 株価 1,003円
  • PER 9.68倍
  • PBR 0.89倍
  • 配当利回り 2.89%

リケンテクノスは、塩化ビニル樹脂コンパウンドの製造で国内トップシェアを誇る企業です。同社は、高機能フィルムや食品包装材料など、幅広い分野で事業を展開しています。

2023年3月期の海外売上高比率は50%を超え、グローバルに事業を拡大しています。自動車産業の回復や医療用品向けの需要拡大が、同社の業績を押し上げると期待されます。

5-4.大同工業(6373)

  • 株価 799円
  • PER 8.46倍
  • PBR 0.28倍
  • 配当利回り 3.13%

大同工業は、バイク用チェーンの製造で国内シェア約70%を誇る企業です。同社は、ホンダ向けの製品を主力としており、高い技術力が評価されています。近年は、電動バイク(EVバイク)用部品の研究開発にも注力しており、将来の成長が期待されます。

5-5.北川鉄工所(6317)

  • 株価 1,709円
  • PER 14.34倍
  • PBR 0.40倍
  • 配当利回り 2.34%

北川鉄工所は、自動車用を中心とする鋳造部品で高いシェアを誇る企業です。同社は、工作機械や産業機械の分野でも事業を展開しており、幅広い製造業の需要を取り込んでいます。自動車産業の回復や設備投資の増加が、同社の業績を押し上げると期待されます。

6.まとめ

日本株投資において、中小型株は大きな成長のポテンシャルを持っており、特に今後の金利上昇局面では、バリュー株の優位性が高まると予想されます。しかし、中小型株投資には固有のリスクが伴うため、投資家は徹底的な企業分析を行い、長期的な視点を持つことが不可欠です。

本記事では、有望な中小型バリュー株を5銘柄選定しましたが、これらはあくまで一例に過ぎません。投資家は自身の投資方針やリスク許容度に基づいて、独自の銘柄選択を行うことが重要です。また、ポートフォリオの分散投資を心がけ、適切なリスク管理を行うようにしてください。

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