ユニリーバのサステナビリティ戦略 – ブロックチェーンで実現する環境保護とトレーサビリティ
一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- ユニリーバとは
1-1. ユニリーバの概要
1-2. ユニリーバの事業内容 - ユニリーバのサステナビリティに向けた動き
2-1. ユニリーバのサステナビリティへの考え方
2-2. 成長計画「Growth Action Plan」 - ブロックチェーンを利用したサステナビリティの推進
- ユニリーバ・ジャパンにおける取り組み
4-1. 気候変動へのアクション
4-2. 自然の保護と再生 - まとめ
世界有数の消費財メーカーであるユニリーバは、20年以上にわたりサステナビリティへの取り組みを推進してきました。2039年までのバリューチェーン全体でのネットゼロ実現を掲げる同社は、2020年にブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティの透明化を含む環境保護対策を発表。気候変動対策、自然環境の保護、循環型社会の実現など、包括的なアプローチで環境・社会課題の解決に取り組んでいます。
日本においても、2015年から全事業所での再生可能エネルギー100%化を実現したほか、サプライチェーンの効率化や生分解性原料の活用など、先進的な取り組みを展開。本稿では、ユニリーバのサステナビリティ戦略と具体的な施策について解説します。
1. ユニリーバとは
1-1. ユニリーバの概要
ユニリーバ(Unilever)は、1930年にイギリスのリーバブラザーズとオランダのマーガリンユニの合併により設立された世界的な消費財メーカーです。食品、パーソナルケア、ホームケア分野で事業を展開し、190以上の国・地域で34億人以上の消費者に製品を提供しています。2024年現在、従業員数は約12万8,000人です。
日本法人のユニリーバ・ジャパンは、ビューティ&パーソナルケア、ホームケア分野を中心に事業を展開し、「ダヴ(Dove)」「ラックス(LUX)」等の主力ブランドを擁しています。「MAKE BEYOND つくるを拓く」というブランドビジョンのもと、製品品質と環境配慮の両立を図っています。
1-2. サステナビリティとブロックチェーン活用の取り組み
ユニリーバは、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパスを掲げ、気候変動、プラスチックの削減、自然の保護と再生、エクイティやダイバーシティの促進といった社会課題に積極的に取り組んでいます。ビジネスモデルにおいても、環境に優しい洗剤の提供や、詰め替え式パッケージの導入など、持続可能な消費の推進に注力しています。
特に近年では、ブロックチェーン技術を活用したサステナビリティ推進が注目されています。ユニリーバは、サプライチェーンにおけるトレーサビリティの透明化を目指し、持続可能な調達プロセスを構築。消費者やパートナーにとって、原材料の追跡を可能にし、持続可能な調達や製品の信頼性向上に貢献しています。この取り組みは、社会と環境の両方に配慮した責任あるビジネスモデルとして高く評価されています。
2. ユニリーバのサステナビリティに向けた動き
2-1. ユニリーバのサステナビリティへの考え方
ユニリーバは20年以上にわたりサステナビリティへの取り組みを推進してきました。世界が直面する経済・環境・社会の課題が深刻化する中、同社は単なる警鐘や長期目標の設定だけでなく、サステナビリティを事業戦略の中核に位置づけることで、より大きな変革を目指しています。
具体的には、サステナビリティ目標の達成とビジネスの競争力向上を同時に実現する戦略を展開し、環境・社会課題の解決を収益性の向上につなげる統合的なアプローチを採用しています。
2-2. 成長計画「Growth Action Plan」
ユニリーバは「Growth Action Plan」として、「より速い成長」「生産性とシンプルさ」「パフォーマンスカルチャー」の3つを柱に、さらなる成長を目指しています。特に「生産性とシンプルさ」では、サステナビリティの目標に焦点を当て、以下の4分野で積極的に取り組んでいます。
- 気候変動対策:2039年までにバリューチェーン全体でのネットゼロ達成、2030年までに事業活動からの温室効果ガス100%削減を目指しています。
- 自然保護:2030年までに主要作物の95%の持続可能な調達実現、100万ヘクタールでの再生型農業実践を計画しています。
- プラスチック削減:2028年までに非再生プラスチック使用40%削減、パッケージの100%リサイクル化を進めています。
- 生活水準向上:2026年までに小規模農家支援と生活賃金保障の実現を目標としています。
3. ブロックチェーンを利用したサステナビリティの推進
ユニリーバは2017年からブロックチェーン技術を活用したサプライチェーンの透明化に取り組んでおり、2020年6月には包括的な環境保護対策の一環として、トレーサビリティの強化を発表しました。この取り組みは2023年までに「森林破壊を伴わないサプライチェーン」の確立を目指すものでした。
2022年4月、同社は「GreenToken by SAPソリューション」のパイロット導入を開始しました。これは特にパーム油のサプライチェーン管理を目的としたものです。従来、パーム油の調達では、サプライチェーンの「ファーストマイル」以降で認証業者と未認証業者からの調達品が混在し、原産地情報の追跡が困難でした。
この課題に対し、インドネシアでの実証実験では、188,000トン以上のアブラヤシ果実の調達にGreenTokenを適用しました。主要サプライヤーである「Golden Agri-Resources社」などがトークンを発行し、これによってパーム油の原産地から最終製品までの追跡がリアルタイムで可能となりました。
4. ユニリーバ・ジャパンにおける取り組み
4-1. 気候変動へのアクション
ユニリーバ・ジャパンの気候変動対策は、主に再生可能エネルギーへの転換、省エネルギー施策、物流システムの革新の3つの分野で展開されています。
再生可能エネルギーについては、2015年11月に国内全事業所で「グリーン電力証書」「J-クレジット」「非化石証書」の活用を開始し、100%再生可能エネルギー化を実現しました。翌2016年には、この取り組みを主力協力工場へも拡大し、年間約4,900トンのCO2削減を達成しています。
省エネルギー施策では、空圧機器メーカーとのパートナーシップのもと、継続的な改善を進めています。設備配管の蒸気漏れ改善やLED照明への置き換えなど、具体的な対策を積み重ねることで、生産1トンあたりのエネルギー使用量の削減を実現しています。
物流システムの革新については、2021年4月に「メニュープライシング」制度を導入し、配送効率化へのインセンティブを設定しました。同時に、日用品・化粧品大手として初めて、全発注を翌々日以降配送に変更しています。さらに2023年8月からは、業界共通の物流システム基盤を活用し、出荷情報の事前共有による伝票レス・検品レスの取り組みを開始しました。
これら一連の取り組みは、環境負荷の低減と事業効率の向上を同時に実現する先進的な事例として、国内外から注目を集めています。
4-2. 自然の保護と再生
ユニリーバは自然資源への依存度が高く、製品原料の半分以上を農林業に依存しているため、環境に配慮した「サステナブルな調達」を重視しています。2021年末時点で、世界全体の主要農産物の79%についてサステナブルな調達を実現し、2030年までにはこれを95%まで引き上げることを目標としています。また、パーム油、紙、大豆などの調達において、森林破壊ゼロのサプライチェーンを維持することを掲げています。
環境配慮はサプライチェーンだけでなく、製品設計にも及んでいます。シャンプーや洗剤などの製品は使用後に生活排水として環境中に放出されることから、水系生態系への影響を最小限に抑えるため、「生分解」性に着目した製品開発を進めています。現在、世界中のビューティ&パーソナルケア、ホームケア製品で使用している原料の約90%を生分解性成分で構成しています。特に日本市場向けの「ダヴ 泡洗顔」シリーズでは、生分解性成分の比率を96%まで高めることに成功しています。
5. まとめ
ユニリーバは世界の消費財市場のリーダーとして、2039年までのバリューチェーン全体でのネットゼロ実現を掲げ、包括的なサステナビリティ戦略を展開しています。
同社の取り組みは多岐にわたり、気候変動対策と自然環境の保護・再生を基本としながら、循環型社会の実現に向けたプラスチック削減にも注力しています。また、企業活動における社会的責任として、ダイバーシティ(多様性)、インクルージョン(受容)、エクイティ(公正さ)の推進にも取り組んでいます。さらに、ブロックチェーン技術を活用してサプライチェーンの透明化を進めるなど、最新技術の導入も積極的に行っています。
これらの取り組みは、環境・社会課題の解決と事業成長の両立を目指す新しいビジネスモデルを示しています。サステナビリティ経営への取り組みを検討しているものの、具体的な着手点を見出せていない企業にとって、ユニリーバの事例は有益な参考モデルとなるでしょう。
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