筆者は2016年からソーシャルレンディング投資を始め、今年で3年目になります。その中でソーシャルレンディング業界にも様々な動きがあり、良いと感じた点と悪いと感じた点の両方がありました。
そこでこの記事では、まずソーシャルレンディングの仕組みについて簡単に解説し、その上でこれまでのソーシャルレンディング投資で培った経験の中から、これからソーシャルレンディング投資を始める人に伝えたいポイントを7つに絞ってお伝えします。
記事目次
- ソーシャルレンディングとは?
- ソーシャルレンディングの利回りはたとえ5%でも非常に高い
- ソーシャルレンディングで2年間の運用期間はリスクが高い
- 日本のソーシャルレンディングは発展途上の投資手法である
- ソーシャルレンディングで最も怖いのは事業者リスク
- 将来的には海外への投資がもっと盛んになる
- 投資をしないと資産は相対的に目減りする一方である
- ファンドの早期償還は悪いことではない
1 ソーシャルレンディングとは?
ソーシャルレンディングとは、お金を貸したい個人投資家(レンダー)とお金を借りたい企業(ボロワー)をインターネット上でマッチングするサービスで、クラウドファンディングと呼ばれる投資手法の一つです。「貸付型クラウドファンディング」や「融資型クラウドファンディング」と呼ばれることもあります。
なぜ、企業がソーシャルレンディングの仕組みを使い、銀行以外からお金を借りようとするかというと、
- 創業年数や取引の実績が浅く、銀行からの融資が十分に受けられない
- 新規事業など銀行からリスクが高い融資案件とみなされてしまう
- 銀行からの融資はすでに受けていて、追加で資金が欲しい
などの理由があるためです。その企業に対して、ソーシャルレンディングの事業者が融資をしても大丈夫かどうかの厳正な審査を行い、審査を通過した企業への融資ファンドが組成されています。
投資家はソーシャルレンディング会社と「匿名組合契約」という契約を交わして融資したいファンドに出資を行い、その出資金をソーシャルレンディング会社がお金を借りたい企業へ融資します。その後、企業から返済された元本と利息をソーシャルレンディング会社が投資家へ分配するという流れとなっています。
ソーシャルレンディングは、高い利回りに対して貸し倒れの件数が少なく、効率的な資産運用手段の一つとしてここ数年で知名度も一気に上がりメディアでも取り上げられることが多くなりましたが、業界としてはまだまだ発展途上の段階にあると言えるでしょう。
これらを踏まえた上で、ソーシャルレンディングへの投資を考える際の7つのポイントをお伝えしていきたいと思います。
2 ソーシャルレンディングの利回りはたとえ5%でも非常に高い
ソーシャルレンディング投資を始める時に、最も気になるのはその利回りでしょう。ソーシャルレンディングの利回りは各社の数字を見るとおおよそ5%から10%程度となっています。maneoやSBIソーシャルレンディングなど大手と言われるソーシャルレンディング会社の利回りは5%から7%程度です。
SBIソーシャルレンディング
ソーシャルレンディング会社名 | SBIソーシャルレンディング株式会社 | |
本社所在地 | 東京都港区六本木1-6-1 泉ガーデンタワー13F | |
設立年 | 2008年 | |
売上高 | 24億9,378万円(2018年4月1日~2019年3月31日) | |
上場有無 | 非上場(親会社のSBIホールディングスは東証1部に上場) | |
サービス開始年月 | 2011年3月 | |
参考利回り | 3.2%~10.0% | |
投資金額 | 1万円から | |
融資残高 | 349億円(2019年7月末時点) | |
投資家登録完了者数 | 37,674人(2019年7月末時点) |
一方でクラウドクレジットなどのソーシャルレンディング会社では利回りが10%を超える案件もあります。そこで収益性を重視するあまり、つい10%を超える高利回り案件に投資したくなる人も多いでしょう。
しかし、年間で5%の利回りというのは決して低い数字ではありません。国債や定期預金は0.1%にすら満たないものも多いですし、株の配当金もかなり良い数字でも2%から3%といったところでしょう。不動産投資にしても手堅い投資先を選んでいくのであれば、年利5%になればいいとも言われます。
ソーシャルレンディング投資における5%や6%といった利回りは、決して低い数字ではありません。むしろ年率5%から6%の分配金が毎月入ってくることは普通の投資手法でもそうはないものと言えるのです。
利回り5%や6%という利回りを見た時に、ソーシャルレンディングの中だけで比較して「低い」と感じるのではなく、他の投資手法と比べて「高い」という点を認識し、利回りが高いからこそ相応のリスクもあると心得ておくと良いかと思います。
この件に関しては2019年3月に金融庁も注意喚起を促しており、「高い利回りなどだけでなく下記のようなファンド業者が提供する様々な情報を確認して下さい」と情報発信をしています。
- 貸付先の属性(業種・事業内容、利害関係の状況等)(※1)
- 貸付条件(貸付額や金利、貸付予定日、貸付期間等)
- 貸付先の資金使途
- 回収可能性に影響を与える情報
- 審査態勢(審査体制、審査手続き等)
- 貸付債権の管理・回収方針・態勢
- 借換えに関する情報
- 返済遅延等に関する情報
ソーシャルレンディングで高い利回りの案件ほど、「本当に信頼できる会社か」「きちんと返済が見込めそうな案件か」を見極めるようにしましょう。
3 ソーシャルレンディングで2年間の運用期間はリスクが高い
ソーシャルレンディングの投資案件を見ると、2年や3年といった長期運用案件があります。安全性を確保しながら投資していきたい場合は、2年間の運用期間があれば市況の変化などのリスクがあることを考えなくてはいけません。
例えば2008年9月にはリーマンショックという世界規模の経済危機が発生しました。その約1年前にサブプライムローンの崩壊というアメリカの経済危機があり、それが実際にリーマンショックの引き金になっています。しかしその1年前の2006年はサブプライムローンの運用もまだ好調であり、経済危機の予兆など現れていませんでした。
最近でも、2018年1月に仮想通貨市場でネムという通貨の盗難が起こる、2018年2月と2018年10月および2018年12月に株式市場が大きな下落を見せる、ソーシャルレンディング市場では2017年以降で5社が行政処分を受けるなど、たったの2年~3年の間でこれだけの大きな事件や市場変動が発生しました。
2017年~2019年のソーシャルレンディングに関する主な行政処分内容
時期 | 行政処分を受けた運営会社 | 処分内容 |
---|---|---|
2017年3月30日 | 株式会社みんなのクレジット | 業務停止命令 |
2017年6月9日 | 日本クラウド証券株式会社 | 業務改善命令 |
2018年3月2日 | ラッキーバンク・インベストメント株式会社 | 業務改善命令 |
2018年7月13日 | maneoマーケット株式会社 | 業務改善命令 |
2018年12月14日 | エーアイトラスト株式会社 | 業務停止命令 |
2019年3月8日 | エーアイトラスト株式会社 | 登録取消し |
2019年3月14日 | ラッキーバンク・インベストメント株式会社 | 登録取消し |
したがって、今から2年間の長期案件に投資してその間、何も起こらないという保証はありません。できれば運用期間は半年程度のサイクルで投資したほうが、経済危機や事件などによる甚大な被害を被らないで済むでしょう。
4 日本のソーシャルレンディングは発展途上の投資手法である</h2
日本のソーシャルレンディング業界はまだ10年程度の歴史しかありません。maneoがソーシャルレンディングの運用を日本で始めたのが2008年。そしてSBIソーシャルレンディングがソーシャルレンディング事業を始めたのは2011年です。
その後、各ソーシャルレンディング会社の参入が相次ぎ、業界として形になってきたのは2014年頃でしょう。さらに現在ソーシャルレンディングに参入している業者は20社程度しかなく、2018年に入ってから新しくソーシャルレンディング業界に参入した会社はほとんどありません。
さらに業界団体といったものもないため、あえて言ってしまえば一つの業界と言える状態でもないのです。maneoが「maneoマーケット」として10社程度にシステムを貸し出し、その業務審査などを行っていますが、ソーシャルレンディング業界として情報を発信したり、海外向けの業界アピールなどを行ったりしたこともまだありません。
仮想通貨の取引所の流出問題が起き、金融庁の調査が各取引サイトに入ったように、ソーシャルレンディング業界も今後は金融庁の様々な調査が入る可能性があります。
実際に2018年6月には金融庁から貸出先の名前を今後は明示していくように指導が入ったり、2018年7月にはmaneoマーケットで募集をしていたグリーンインフラレンディングが資金を不適切に運用していたことでmaneoマーケットに対して行政処分が下されるなどの動きがありました。加えて、2019年3月には投資家から訴訟が起こされるなど、今まさに投資家保護の観点からも改善が求められている最中です。
一方、そういった一連の流れを受けて、これまでのソーシャルレンディングの課題を解決するサービスも登場しています。それが、2019年1月に開始した貸付ファンドのオンラインマーケット「Funds(ファンズ)です。
Funds
ソーシャルレンディング会社名 | 株式会社クラウドポート |
本社所在地 | 東京都渋谷区渋谷2丁目6-11 花門ビル5階 |
設立年 | 2016年 |
資本金 | 188,005千円 |
上場有無 | 未上場 |
サービス開始年月 | 2019年1月 |
参考利回り | 1.5%~6% |
投資金額 | 1円から |
累計応募金額 | 4億3510万円(2019年6月時点) |
運用期間 | 4ヶ月~12ヶ月程度(案件により異なる) |
Fundsは、1つの口座で複数の企業のファンドに投資することができるサービスで、ファンド組成企業には財務状況や事業の計画性、適格性などの観点から厳密な審査を行っており、ファンド募集時にも個別ファンドごとの審査を徹底しているという特徴があります。
また、Fundsでは「関係会社貸付スキーム」を採用していることも大きな特徴で、ファンド組成企業と最終の借り手である外部企業との間に関係会社を挟むことで、仮に外部企業からの返済がなされなくても、その損失分は投資家ではなくグループ会社が負担することとなりますので、投資家が負う返済リスクをファンド組成企業とグループ会社間の返済に限定しています。
予定利回りは1.5%~6%と決して高くはありませんが、融資先が完全に不透明だったこれまでのソーシャルレンディングと比べると透明性や信頼性の高いサービスと言えるでしょう。
このように、法整備の面や安定性の面においても、ソーシャルレンディング業界はまだ発展途上の投資手法だと言えます。それだけに、自分でいかにリスク管理を行うかが収益を生み出すためには重要になってくるのです。
5 ソーシャルレンディングで最も怖いのは事業者リスク
ソーシャルレンディングに投資する時、「この案件は大丈夫か」と案件リスクを恐れる人が多いでしょう。しかしある意味で、貸し倒れが起きる可能性があるからこその高い利回りであり、2018年までほとんどの会社で案件の貸し倒れが起きていなかった状況こそ不自然であるとも考えられます。
日本のソーシャルレンディング業界は貸し倒れがほとんど発生していないだけに、各社ともできるだけ貸し倒れを発生させないような『無理のある営業』を行っている可能性もあります。その結果、投資家に対して詐称や無理な融資を行っていた事実がラッキーバンクやみんなのクレジットの行政処分で明らかになりました。
一方で、海外向け融資を専門に行なっているクラウドクレジットではいくつか貸し倒れや返済遅延は発生しているものの、その理由や状況はしっかりと投資家に提示されており、同社の累計募集金額はいまだに順調な推移を見せています。また、投資家にもクラウドクレジット内で返済遅延や貸し倒れが起きることを想定した上で分散投資することをきちんと呼びかけており、事業者として説明責任を果たしていると言えるでしょう。
クラウドクレジット
ソーシャルレンディング会社名 | クラウドクレジット株式会社 |
本社所在地 | 東京都中央区日本橋茅場町1-8-1 茅場町一丁目平和ビル802 |
設立年 | 2013年 |
資本金等 | 20億8,454万6千円(2018年11月30日時点) |
上場有無 | 非上場 |
サービス開始年月 | 2014年6月 |
参考利回り | 5.9%~12.2% |
投資金額 | 1万円から |
投資実行額・応募総額 | 215億3,010万円(2019年8月14日時点) |
運用期間の目安 | 最短7ヶ月~最長66ヶ月 |
また、ソーシャルレンディングには担保付き案件も少なくありませんが、担保案件でリスクを軽減する取り組みとしては、①担保評価に第3者を介在させる、②評価額の7割~8割を募集上限に抑えるといった事前策があります。
たとえば、レンデックスでは、担保査定の際に自社査定に加えて東急リバブルの査定も利用し、いずれか低い方の80%を上限にファンドを組成することで金額の信頼性を高める取り組みをしています。また、担保設定案件では、査定結果の80%までを上限にファンドが組成されているので、担保不動産の価値の下落幅が20%までであれば元本割れが起こらない仕組みとなっています。
ソーシャルレンディングでは、案件リスクを過剰に恐れるよりも貸し倒れは一定確率で起こるものと想定して分散投資を行い、貸し倒れが起こっても回収できる会社を選んでおくというリスクヘッジをしておくことや、最終的にある程度の利益が出ればいいというスタンスで行った方が致命的な損害は避けられます。
分散投資の理想としては複数の会社で30案件以上に投資資金を分散することですが、ファンド選びの時間が取れない方や投資資金があまり多くないという場合、現実的なラインとして10案件を目安に分散を心がけていくと良いでしょう。
6 将来的には海外への投資がもっと盛んになる
海外の案件を専門に取り扱っている日本のソーシャルレンディング会社にはクラウドクレジットやネクストシフトファンドなどがあります。現在は、日本国内の案件専門の会社も多いですが、今後は海外への融資案件の比率や数も増えていくことが予想されます。
日本の金利は現在大変低く、一般的な企業は事業資金の融資を低金利で受けられます。普通に考えればソーシャルレンディング会社からの融資は投資家収益+ソーシャルレンディング会社の利益ですから、融資を受ける際の金利は10%以上でもおかしくありません。
ソーシャルレンディングで投資家に満足な分配金を提供するためには、非常に高い金利で借り入れる会社の開拓が必要となります。しかし現状の低金利ではなかなかそういった気前のいい会社を見つけるのは困難でしょう。
それよりも、経済が発展途上にあり、高金利でも融資を受ける会社の多い海外での融資先開拓の方が、今後主流になっていくと思われます。ソーシャルレンディング投資家としても海外案件に積極的に乗り出し、海外各国それぞれのリスク研究などを行っていくべきでしょう。
7 投資をしないと資産は相対的に目減りする一方である
日本はここ20年ほどほとんど物価が変わらず、対して中国を中心にアジア各国では国民の資産が増えており、実際に日本のGDPはすでに中国に抜かれています。中国以外のアジア各国ではめざましい経済成長を見せており、それゆえに日本に対する海外からの観光客が増加しているのです。
つまり相対的に見て日本の経済成長がほとんど見られず、海外に対する日本人の資産価値が相対的に下がっていると考えられます。そういった環境下では、現金をそのまま持っているだけでは資産は目減りする一方だと考えられます。投資をしてお金を増やさないと、少子高齢社会で大きな経済成長が期待できない(むしろ経済が縮小する可能性がある)日本はどんどん貧しくなってしまう可能性が高いのです。
また、2019年6月3日に金融庁からは人生100年時代において「老後に2,000万円の資産が必要になる」という記載がある報告書が提出され、老後に向けた「長期・積立・分散投資」による資産形成・管理が強調されています。
老後の人生を自分で守るためにも、ソーシャルレンディングなどを含めた様々な投資を分散して行っていくことで、自分で資産を増やしていかなければいけないでしょう。
8 ファンドの早期償還は悪いことではない
ソーシャルレンディングには早期償還という予定の運用期間よりも早く貸付金を返済されることがあります。ソーシャルレンディングの投資家の中には、この早期償還を嫌う人もいます。「想定利回りでは6ヶ月間、3万円の分配金が毎月確実に入ってくるはずだったのに、運用が3ヶ月で終わってしまったらまた投資先を探す必要に迫られる」といったことを面倒に感じる人も多いでしょう。
しかし早期償還が行われるということは融資先がしっかりと事業を成功させており、満足な返済能力があるということの証明にもなります。それだけ健全な融資先を複数確保しているということは、そのソーシャルレンディング会社に見る目が確かにあることの証となるでしょう。
また、都内の不動産投資の案件を扱っているオーナーズブックでは、早期償還時には10%を超える高い利回りになることもあり、早期償還がユーザーにメリットのある形で運用されています。
オーナーズブック
ソーシャルレンディング会社名 | ロードスターキャピタル株式会社 |
本社所在地 | 東京都中央区銀座1丁目10番6号 銀座ファーストビル2F |
設立年 | 2012年 |
資本金 | 13億75百万円(資本準備金とあわせて27億40百万円) |
売上高 | 96億7,000万円(2018年12月期実績) |
上場有無 | 東証マザーズ上場 |
サービス開始年月 | 2014年9月 |
参考利回り | 4.0%~6.0%(2019年8月時点) |
投資金額 | 1万円から |
投資実行額・応募総額 | 125億2,880万円(2019年8月14日時点の投資実行済案件総額) |
運用期間の目安 | 最短1ヶ月~最長25ヶ月 |
投資家会員数 | 2万名超(2018年7月30日時点) |
まとめ
本文中で挙げたように日本のソーシャルレンディング業界は海外に比べてまだ発展途上であり、海外では多く見られる個人向けの融資なども現在では行われていません。私がソーシャルレンディング業界に期待することは、業界団体の発足や金融庁による指導で投資家への情報開示が行われ、透明性が高まっていくことです。
そうすれば投資家自身が事業者リスクを避け、より安全性と収益性の高い投資案件を選べるようになるでしょう。その結果、ソーシャルレンディングが一般的な投資手法になり、日本人全体の資産運用の一環としてポピュラーになっていくことを望んでいます。
Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース