「半減期と仮想通貨ビットコインの高騰」なぜ一緒に語られる? ストック・フロー比率から算出する理論価格を用いて解説
半減期でビットコイン価格が上昇する理由
ビットコイン(BTC)は2020年5月に「半減期」を迎える予定だ。
BTCの半減期とは、BTCの新規発行枚数が半減する時期だ。現在、BTCの取引承認に必要な計算パズルを解いた者(マイナー)に報酬として12.5BTCが発行されるが、2020年5月ごろにこの報酬額が6.25BTCに半減することになる。
過去には半減期後にBTC価格が急騰した歴史がある。そのため、BTC半減期は直近で投資家が注目する最大のイベントになっており、最近では関連するワードのグーグル検索数が急増している。
半減期でBTC価格が上昇する背景には理論的仮説がある。今回はBTCの「希少性」を表す指標である「ストック・フロー比率(S2F)」を解説し、半減期後の理論価格を導出する。
なお、S2Fを用いたBTC理論価格の導出には一定の批判もあり、必ずしも将来のBTC価格を完璧に予想できるものではないことに留意していただきたい。
目次
ストック・フロー比率(S2F)とは
ストック・フロー比率(S2F)は金などの「希少性」を測るための指標だ。ほとんどの商品は、生産量が急増することで市場流通量が急増し、価格が暴落する。一方、金などの一部の希少性が高い商品は、市場に存在する量に対して年間の生産可能量が小さく、供給過多によって価格が暴落することがない。
実際に、以下の式で算出される各商品のS2Fを測ると、金の希少性が説明できる。
S2F=市場に存在する量(ストック)/年間生産量(フロー)
計算によると、金のS2F比率は62となる。これは、金の現存量と同量を生産するのに62年を要することを意味している。
ここで注目すべき点は、パラジウム、プラチナのS2Fは非常に低い値になっているということだ。金や銀などを除いたほとんどの商品は、市場のストックが減少すると一時的に価格が上昇するものの、それに応じて生産量を増加させることができ、価格が下落しやすい。
これまでの議論から、プログラム上で発行枚数上限を2100万枚と固定され、半減期によって新規発行量が減少していくBTCでは、このS2Fが時間の経過とともに高まっていくことが分かるだろう。そこで、BTCをS2Fのモデルに当てはめてみよう。
S2FモデルによるBTC理論価格の算出 ①PlanB
仮想通貨アナリストのPlanBは、S2Fのストックとして、一部失われたBTCを考慮に入れて「これまでの発行枚数-100万BTC」として計算を行っている。フローは、ブロック生成数×1ブロック当たりのBTC報酬額で求めることができる。
2009年12月から2019年2月のデータをもとに、同氏が計算した毎月のBTCのS2FとBTCの時価総額をプロットしたところ、一定の規則性が発見された。S2Fと時価総額の両方について対数をとり線形回帰を行うと、S2Fと時価総額の間に統計的に有意な結果が確認された。
興味深いことに、金と銀についても同じ図表にプロットしたところ、BTCのS2Fと時価総額の回帰線に近い位置にプロットされた。
さらに同氏は、この回帰結果をもとに将来のBTC価格を予想した。
S2Fモデルから算出されたBTCの理論価格は、2020年5月ごろの半減期で急増することが分かる。これは、半減期によって1ブロック当たりのBTC報酬額が半減することで、年間のフローがほぼ半減することに起因する。
このモデルによると、BTCのS2Fは半減期後、約25から約50に上昇。それに伴って、理論価格も急上昇する。このモデルによれば、BTC時価総額は半減期後の2020年5月に1兆ドルに達し、1BTCあたり55,000ドル(約600万円)を突破する。
ツイッターアカウントS2F Multipleでは、このモデルに基づいたBTC理論価格を毎日更新している。これによると、2月28日現在、理論価格は8689ドル(約94万円)と、ほぼ実際の価格通り推移している。
S2FモデルによるBTC理論価格の算出 ②バイエルン州立銀行
ドイツのバイエルン州立銀行による算出では、2020年5月の半減期後のBTC価格は約90,000ドル(約973万円)となる。
同社のモデルでは、S2Fのストックとして、これまでの総発行枚数からサトシ・ナカモトが保有しているとみられる約100万BTCを差し引いた数量を用いている。
また、同社のモデルでは、回帰データとして2010年半ばから2019年9月までのデータを用いており、半減期後のBTCのS2Fを約53と計算している。
モデルごとの違いと両者の共通点
S2Fモデルを用いたBTCの理論価格について、PlanBとバイエルン銀行とでは半減期後のBTC理論価格に誤差が見られた。
この誤差は、取り扱うデータの期間やS2Fの計算方法の違い、価格推定式のパラメータの誤差などによって生じている。
一方、半減期によって価格が急上昇することは、両者のモデルがともに示唆している重要な点だ。どちらのモデルを用いても、半減期によって年間フローが半減し、S2Fが約2倍になることは変わらないからだ。
S2Fモデルを用いてBTCの割安・割高度を数%単位で厳密に測定することはあまり意味をなさないことが分かる。しかしながら、半減期がBTCの希少性と価格に大きなインパクトを与える可能性があることはS2Fモデルによって明示される。
S2Fモデルへの批判
S2Fモデルは過去のBTC価格とS2Fの統計的傾向からBTCの理論価格を推測しているにすぎないことにも注意が必要だ。線形回帰による推定では、S2Fが高まれば高まるほどBTCの時価総額が高まるという結論が導かれてしまうが、将来S2Fがある閾値を超えるとそれ以降は時価総額が上昇しない可能性もある。
この点に関しては、イーサリアム創業者のVitalik Buterin氏も「理論価格は後付けにすぎない」と批判している。
Your daily reminder that 95%+ of articles of the form event X will make crypto go (up | down) are post-hoc rationalized bullshit. pic.twitter.com/KBQps4MF5H
— vitalik.eth (@VitalikButerin) February 27, 2020
また、このモデルはマイナーの撤退行動を考慮していない点も問題だ。半減期後の1ブロック当たりの報酬が半減しマイニングの魅力が弱まることで、マイナーはBTCマイニングから撤退したり、代替的な通貨のマイニングを始める可能性もある(2020年の半減期ではBCHやBSVが先に迎える)。そうなった場合、BTCのネットワーク価値が低下し、BTC価格にも影響を及ぼす可能性がある。
さらに、このモデルは、BTCの新規発行という供給面のみからの視点で分析を行う。実際にはBTCの価格形成は需要と供給の両面によって成り立つものであり、需要面も考慮に入れなければならない。
需要面からモデルを作成する場合、例えば一定期間におけるBTCチェーン上の取引高から推定を行う方法が考えられる。また、アクティブユーザー数の推移からBTC価格の短期的な値動きを推定する方法も考えられる。
Source: 仮想通貨ニュースサイト
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