【元トレーダーが解説!】暗号資産取引市場を取り巻く規制と展望
証券会社を経て、暗号資産(仮想通貨)取引所でトレーディング業務に従事した後、現在は独立して仮想通貨取引プラットフォームのアドバイザリーや、コンテンツ提供事業を運営する中島翔氏のコラムを公開します。
目次
- BitMexを初めとする海外取引所の日本ユーザーの締め出し
- FATFのトラベルルールの施行
- 新しい金融庁長官の就任ー暗号資産市場への姿勢は?
- 業界団体の要望書ー株やFXと同じ申告分離課税に?
- 暗号資産取引に有利な税制を導入する国々
①BitMexを初めとする海外取引所の日本ユーザーの締め出し
暗号資産デリバティブ取引所BitMEX(ビットメックス)を含む海外取引所が、KYC(本人確認)を導入する動きを見せています。同社は2020年8月28日から身分証明書の提出を求めるKYC体制を敷くことを公表しました。BitMEXの8月14日付けのリリースによると、既存ユーザーは6カ月以内に身分証明書等の提出する必要があります。
日本の暗号資産取引所と比べて、取扱銘柄が多く、レバレッジも大きく掛けられるなどの特徴があるため、これまで日本のユーザーが海外の取引所を利用するケースも少なくなかったと思います。
しかし、ここへきて日本のユーザーをサービス対象外とする流れが出てきており、今後も加速することが考えらえます。今後も、海外市場で暗号資産を取引したいと考えている人は、気を付けるべきことがあります。ここでは暗号資産市場に関する現状の規制と今後の展望について触れていきます。
②FATFのトラベルルールの施行
KYCやサービス規制など、暗号資産取引所の行動の動機には、FATF(Financial Action Task Force)の暗号資産の扱いに関するガイドラインがあります。G20でも議題として取り上げられていました。
2019年6月に提出されたガイドラインには、暗号資産取引所が金融機関と同様のマネーロンダリング防止施策「トラベルルール」を導入するよう勧告しました。トラベルルールとは送金当事者が互いに、“誰が、誰(どこ)に、何を、どれくれらい送付するか”かを交換・記録するものです。現在の暗号資産取引所にはない仕組みなので、業界全体の仕組みを検討する必要があります。
まだ実行段階ではありませんが、主要各国の金融規制当局はFATF勧告に準拠するよう時刻の暗号資産規制を改訂しています。トラベルルールが運用に落とし込まれると、エンドユーザーは身分認証済みのウォレットアドレスにしか送金できなくなるでしょう。国内の取引所から、金融庁のライセンスの無い海外取引所へ暗号資産を送ることもできなくなると予想されます。
逆もまた然りです。国内取引所が、身元不明のウォレットからの送金を受け付けない仕様を実装することも考えられます。そうなれば、海外取引所から国内取引所に暗号資産を送ることができなくなるでしょう。
次の動きとしては、2020年10月には中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)についての調査書がFSB(金融安定理事会)とCPMI(市場インフラ委員会)から提出される見込みです。このタイミングでトラベルルールの具体的な実行案も出てくると見られています。
③新しい金融庁長官の就任ー暗号資産市場への姿勢は?
2020年に新たに金融庁長官に就任した氷見野良三氏は、ロイター紙のインタビューに対して暗号資産の規制緩和に慎重な姿勢を示しました。氏は「暗号資産取引を推進することは、必ずしも技術発展を促進するわけではない」と語っています。
一方で氷見野氏は、中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)の検討に注力していくと主張しました。背後には、新型コロナウイルスによりキャッシュレス決済の需要が高まっているとしています。
氏の見解を受けて、国内における暗号資産規制の明確性を得られるのはまだ先のこと、と受取ったトレーダーは少なくなかったと思います。
④業界団体の要望書ー株やFXと同じ申告分離課税に?
2020年8月に暗号資産取引業界の自主規制団体である「日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)」と「日本暗号資産取引業協会(JVCEA)」が、税制に関する要望書を共同作成して金融庁に提出しました。
2021年度の税制改正に向けて、暗号資産取引にかかる利益への課税方法を 20%の申告分離課税とするなどの提案が盛り込まれています。現在のところ、暗号資産取引で得た利益は「雑所得」に分類されるため、損益通算は適応できません。また税率も最大55%です。要望書の主な内容は、株式取引やFXと同様に申告分離課税を適用し、税率は20%、損益通算を可能にするなどです。
氷三野氏は国際部門から初めて長官に選出されており、広い見識と今まで無い取り組みが期待されていると考えられます。業界団体の要望書を受けて、氏がどのような回答を導き出すのか、非常に興味深いところです。
FX(外国為替証拠金取引)が台頭してきた1990年代には、現在の暗号資産取引と同様に総合課税が適用されていました。誕生から10年近くの歳月を経て、ようやく取引所取引での申告分離課税が認められ、現在に至っています。FXの歩んできた道筋を鑑みれば、暗号資産取引における課税方式の改善も時間の問題と言えます。
暗号資産取引が国内で始まったのは2013年頃です。申告分離課税が適用され、それを機に国内取引所にトレーダーが回帰する日も、そう遠くないかもしれません。
⑤暗号資産取引に有利な税制を導入する国々
海外のビットコインニュース・リサーチメディアのThe Blockが、2019年9月に報じたところによると、フランスのル・メール経済財務大臣が「暗号資産間の取引は課税対象外とし、法定通貨に交換したときにのみ課税対象」とする方針を示しました。
【関連記事】The Block : “France will not tax crypto-to-crypto trades; will tax gains converted into ‘traditional’ currency”
ポルトガルでは暗号資産間の取引を課税対象外とした上で、暗号資産を使った決済についても非課税としています。欧州では暗号資産の普及に有利な税制が整っており、利用者が増加する可能性がありそうです。
フランスの規制に倣って、日本でも近い将来にユーザーの要望に沿った税制度が設けられるのではないかと期待できます。そうなれば、これまで海外の暗号資産取引所を利用してきた日本人が、国内の取引所に回帰する可能性もあります。日本の暗号資産産業としては良い方向へ向かっていると言えます。
Source: 仮想通貨の最新情報BTCN | ビットコインニュース
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